谷さゆり

患者さん一人ひとりの幸せを汲み取ることが大切です
福祉村病院医師
たに・さゆり

谷さゆり

福祉村病院の医師であり、月刊会報誌『さわらび』の編集長でもある谷さゆり先生。谷先生は、若い頃にクリエイターや人類学者に憧れながらも医師を目指すことになったというユニークな経緯を持たれています。そんな谷先生に、医師という職業を選んだ理由から、現在のお仕事内容、さらには、さわらびグループのビジョンである「超“幸”齢社会の実現」のために必要なステップまで、いろいろとお話を伺いました。

先生はいくつかの職務を兼任されていますね。

私は福祉村では医師としての仕事と、機関誌『さわらび』の編集をしています。

医師の仕事は、さらに3つに分かれます。

病院での患者さんの診療。施設の嘱託医として、「第2さわらび荘」をはじめとする4つの施設で暮らしている方々の健康管理。最後に、産業医として、「さわらび荘」「珠藻荘」など計7施設を受け持ち、職員の産業衛生管理を行っています。

機関誌『さわらび』の編集長に着任したのは約7年前です。『さわらび』はグループ内の各施設で配布していて、初号は1973年5月1日です。初代編集長は理事長山本孝之でした。今年(2018年)で創刊45周年を迎えます。さわらびグループの歴史や“今”がわかる「インド福祉村設立20周年」「さわらび会施設名の由来」といった特集を組んだり、医療法人・社会福祉法人の職員たちの人となりや活動、考え方などがわかる記事を盛り込んでいます。

少し大袈裟ですが100年、200年後に読み返してもさわらびグループの歴史が分かる記録としての機関誌を作ってゆきたいと思っています。

谷先生は認知症を抱える患者さんの診療だけでなく、さわらびグループ施設の嘱託医、産業医としても活躍。写真は嘱託医として勤める特別養護老人ホーム「第2さわらび荘」にて。

さわらびグループのよさをどんなところに感じますか?

まずは子育てしやすいこと! 都会で待機児童問題でお困りの方がいたら、引っ越してでもさわらびグループに働きにおいでよ、と勧めたいくらいです。豊橋は都会と田舎のよさをあわせもっているので暮らしやすいと思いますし。私は子ども3人が福祉村保育園のお世話になりましたが、利用料も無料で、仕事と子育ての両立は本当に楽でした。

次にグループ内での職員の交流が盛んです。看護部会や介護部会、あるいは機関誌『さわらび』の編集会議のように、異なる施設の人たちが集まり、より良い仕事をするためにがんばっているところが好きです。

また、常識にとらわれず職員の力を引き出してゆくところがよいです。私は若い頃に宇宙戦艦ヤマトや聖闘士星矢の同人誌を作っていたのですが、そのことを理事長に知られてしまったんですね。するとある日突然呼び出され、「次から君が『さわらび』編集長だからよろしく!」と任命されました。普通、病院の勤務医には医師の仕事しかさせないでしょう。趣味で作る本と機関誌は全く違うものなのに、理事長から直々に「君ならできる!」と言われたら、がんばるしかないですよね。すごいな、と思いました(笑)。

最後は、生きがいを持って働くことのできる職場だというところ。だからこそ職員である知人や肉親のすすめで入社するスタッフも多いです。働きやすい職場、これは誇れることだと思っています。

幸せな超高齢社会の実現のために必要なのは何だと思われますか?

自分の幸せとは何かを考えていただくことだと思います。

「幸せって何ですか?」と尋ねられても、答えは人によって違いますよね。「おいしいものを食べること」だという方もいれば、「猫とソファーで寝そべるのが幸せ」だという方もいます。けれど、こうした幸せは、味覚や触覚が正しく機能して初めて感じられるもの。ですから、「幸せとはこういうものだ」と決めつけて施策を行うのではなく、高齢者一人ひとりにとって「今と未来の幸せ」について考えていただき、私達はその思い汲み取る。そのためには、傾聴し、じっくりと話し合う。これがとても大切な基礎、土台だと思います。

その上で、超“幸”齢社会の実現のためには、外に向けてさわらびグループの「超“幸”齢社会をデザインする」という理念を広く発信し、理解を深めていただくことが重要だと考えています。世界中で超“幸”齢社会について語り合えるくらい理解が深まる社会になると良いですね。

先生が医師を目指すことになった経緯がユニークですね。

私が高校生だった頃はまだ男女雇用機会均等法などはなく、男性と同じ収入を得ようと思ったら、先ずは公的な資格が必要でした。そこで何か資格をと考えたのですが、司法試験は難しそうですし、公認会計士というのも頭脳労働で私には向いていない気がしたんですね。そんなとき「体力がものを言うお医者さんなら、自分も頑張ればなれるんじゃないか」と思いついたんです(笑)。

子供の頃から神話や探検記が大好きだった私は、医師になればそういった人類学に携わるチャンスがあるのではないか、という考えもありました。コンティキ号探検記やテレビドラマ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』の世界に憧れる一方で、「実際に海外で調査中に怪我や病気になったらどうしよう」と不安でした。この話をするとみなさん笑いまけすけど(笑)。でも、自分が医師なら少し安心じゃないですか(笑)。そんな目論見もあって医師を志しました。

利用者一人ひとりと向き合い、健康状態をチェックするのは嘱託医の大事な仕事のひとつ。高齢者は体調が変化しやすいため、早期発見・早期対応が求められる。
谷さゆり(たに・さゆり)1964年9月19日生まれ。愛知県豊橋市出身。福祉村病院に勤めながら、機関誌「さわらび」編集長。日本医師会認定産業医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本ボディビル連盟公認審査員の資格を保有。休日の楽しみは、薔薇と薬草の手入れ、スポーツ観戦。少女コミック誌『花とゆめ』は愛読書のひとつ。
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